昭和45年発売!シングルレコード「おらと海」ライナーノーツより
高岡良樹の「おらと海」を推す。山田洋次(映画監督)
日本という国は、いまだにというより近年、特に政治的に、文化的に中央集権の傾向が強く、地方で活躍している芸術家、芸能人に対しての評価は、中央にいる者に比べると極めて低いので、真の意味での民衆芸術家がなかなか育たない。
しかし、名声や金が欲しいのではない、歌わずにはいられないから歌うのだという魂の叫びは、プロ化した既成の芸術集団、芸術社会よりもむしろ地方に発見される場合が多いのではないだろうか、千葉市に生き、全国の地方都市に隠れたファンを持つ彼の歌は、そうしたケースの典型的なものである。自らの詩を自らが曲づけし、自ら歌う。初めは個人的体験に根ざした青春の歌が中心であった、いまは彼が心をこめて歌い、若者ばかりでなく老人にも勤労者にも、インテリ層にも共感を持って受けとめられている「おらと海」は、このユニークな歌手の見事な成長を如実に示している。
中央ではあまり名の知られていない、地方の一歌手、高岡良樹という人が、従来のフォークの世界に欠けていた物語性と民族性を掘り起こし、初めてのオリジナルな日本人の心のうたを生み落としたということは注目されなければなるまい。
今や彼は、ひとり千葉県や地方の限られたファンだけのものではない。その意味や理由をここで、くどくどと並べ立てるより百閒は一見にしかず。とにかくも「おらと海」を静かに聞いていただきたい。